RYOTA YAMADA

Sunday, November 7, 2010

ご飯を炊くエネルギー その7 水素

スペースシャトルの歴史がそろそろ閉じようとしている。まだ最後のフライトとなる日は確定していないようだが、来年には引退となるようだ。一度でいいからケネディ宇宙センターで打ち上げの瞬間を見てみたかったのだが、どうやら叶いそうにない。全部で3機残っているスペースシャトルのうちの1機であるディスカバリーは、いま水素燃料漏れと外部燃料タンクの断熱材に亀裂が見つかったため打ち上げ延期となっており、予定通りに行けば今月末でラストフライトとなるようだ。

そう、「水素燃料漏れ」と書いたように、スペースシャトルで使われている燃料は水素である。ちなみに日本のH2-Aロケットに使われている燃料も水素。ではなぜ水素が使われているのか?ロケット工学は複雑であり、専門家でもない僕が理由を簡潔に説明するのはかなり無理があると思うが、あえて説明してしまおう。なぜ水素が使われているのかというと、様々な種類の燃料の中で、同じ重量を燃やした時の発熱量がもっとも大きいからである。言い換えれば、同じ力を出せるのであれば、より軽い燃料を積んだほうが良いということ。人間に例えれば、マラソンをするのに1,000キロカロリーが必要だとして、そのエネルギー源として950gのうどんを食べてから走るより、180gの高カロリーなチョコレートを食べてから走るほうが、体が軽くて楽だということだ。そしてロケット全般に言えることだが、スペースシャトルの重量はそのほとんどが燃料なのである。あのスペースシャトルが腹に抱えてる円筒形の巨大な物体は、ロケットではなくて単なる燃料タンク。燃料を打ち上げるために、その燃料を燃やしてロケットエンジンを噴射させているようなもの。だからそのぶん燃料は軽いほうがいい。

ではなぜ、様々な燃料の中でも、同じ重量を燃やした時に水素がもっとも発熱量が大きいのか。それは水素を構成する基本粒子である水素原子が、宇宙一軽い原子だからである。空気よりも軽く風船に詰めると空中に舞い上がるので、1937年にアメリカで爆発炎上したヒンデンブルク号というドイツの飛行船には、水素がぎっしり詰まっていた。水素が燃えるというのは、水素原子と酸素原子が結合して水になり、その時に熱を発生するという反応である。同じように、冬に大変便利なホッカイロは鉄が燃えることで熱を出しているが、鉄原子と酸素原子が結合して酸化鉄になり、その時に熱を発生するという反応である。水素も鉄も同じように酸素と結合して熱を出すという仕組みであるにもかかわらず、水素原子は鉄原子と比べて遥かに軽く1/56の重量なので、同じ重量であれば水素原子の数の方が鉄原子よりも56倍も多いことになり、同じ重量を燃やせば水素のほうが鉄よりも多く熱を出すということになる。

では、その水素15グラムでご飯が何合炊けるのか?水素の単位重量あたりの発熱量は灯油の約2.7倍であり、灯油15グラムで1合のご飯が炊けるので、水素15グラムでは2.7合のご飯が炊けることになる。


このようにガソリンやガスなどの石油系の燃料とくらべて重量あたりの発熱量が多いことや、燃えても二酸化炭素や有害物質を一切排出せずに水しか出さないことや、最近のエコブームで水素自動車などが話題に挙がっているのを聞くと、とても環境に優しい完璧な夢の燃料に聞こえてくるが、実際はそうそう簡単にはいかないものである。

石油は大地から掘り出し精製するだけだが、水素は掘れば出てくるようなものではないので、大量のエネルギーを使ってまず作り出さなければならない。その水素を作るエネルギーが問題で、石油を燃料とした火力発電所の電気エネルギーを使って水素を作り、その水素で車を走らしたのでは、結局のところガソリンを使って車を走らすのと環境負荷的には大して変わらないということになる。したがって、二酸化炭素を排出しない太陽電池発電所や水力発電所の電気エネルギーで水素を作るとか、または太陽の光で育てた植物からアルコールを作り、そのアルコールを分解して水素を作るなどしないと環境負荷が軽減されないことになる。分かりやすく例えるならば、石炭をいい加減に燃やして二酸化炭素や有害物質をガンガン排出しながら発電した電気エネルギーで水素を作っていては、いくらその水素で自動車を走らして水しか出ませんと言ってみたところで、まったくエコではないということ。水素は結局のところ、高圧送電線で送られる電気エネルギーのように、ある場所から違う場所へとエネルギーを運ぶ媒体でしかないということだ。上手に自然エネルギーを使って水素を作り出さなければならないし、作り出した水素は電気と違って自動車などで運ばなければならないので運搬するエネルギーも勘定に入れなければならず、さらに液体水素は室温でどんどん蒸発してしまうので早く使いきらないと無くなってしまう。

また、水素は室温だと気体なので、そのまま容器に入れて運んでみたところで、ほんの僅かな重量しか運べない。紙袋に空気をいれて運ぶのとなんら変わらないどころか、空気より水素は軽いので空気以下の重量しか運べないのである。それではまったく使いものにならないが、水素は-253度まで冷やせば液体になり体積が1/800に減るので運びやすくなる。だからスペースシャトルは燃料タンクに液体水素を入れている。だけど液体水素は-253度以上で沸騰して気体になってしまので、魔法瓶にでも入れて断熱しておかないと、あっという間に蒸発して無くなってしまう。魔法瓶じゃあまりに重いので、スペースシャトルは発泡断熱材でお腹に抱えた外部燃料タンクを覆っている。まあ発泡スチロールで冷やしたペットボトルを囲んで保冷しているみたいなものである。だけれどこの発泡断熱材が脆く、振動でボロボロ剥がれるものだから、剥がれた破片がスペースシャトルの翼に当たって破損させ、コロンビア号の空中分解という大惨事になってしまった。冒頭に書いた、「外部燃料タンクの断熱材の亀裂が原因で打ち上げ延期」というのは、このような訳でNASAにとってはとても頭が痛い問題なのである。まあどのような方法をしても、-253度の液体水素は、石油に比べて持ち運びや保存が非常に厄介だということだ。

ちなみに、1969年に人類を初めて月に送ったNASAのサターン5型ロケットは、燃料が灯油である。ちょっと驚きませんか?

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